若さを取り戻す医療から、「回復できる身体」を育てる医療へ
私は長い間、「老化」という問題を考えてきました。
医師として患者さんを診療し、研究者として細胞や免疫、そしてミトコンドリアを見つめてきました。
その中で、私自身の考え方も少しずつ変わってきました。
最初に考えたのは、
「老化は、本当に避けられないものなのだろうか?」
という問いでした。
そして今、私が考えている問いは少し違います。
「人は、なぜ回復できなくなっていくのだろうか?」
この問いの変化こそが、私が「アンチエイジング」から「Recovery Capacity ― 回復力」へ進んできた理由です。
「老化は運命ではない」から始まった
私が『老化は「治る」』を書いたとき、伝えたかったことは明快でした。
老化は、ただ受け入れるしかない運命ではない。
生活、栄養、代謝、酸化ストレスなど、私たちが働きかけられる部分はあります。
そこで私は、「アンチエイジング3本の矢®」という具体的な考え方も提示しました。
つまり、この段階での問いは、
「老化にどう介入するか」
でした。
しかし、臨床と研究を続けているうちに、私はさらにその奥を考えるようになりました。
老化に介入できるとしても、
そもそも、なぜ人は老化していくのでしょうか。

ミトコンドリアにたどり着いた
その問いを追いかける中で、私が強く注目するようになったのが、ミトコンドリアです。
そして『ミトコンドリアから読み解く老化と再生』では、
「なぜ老化するのか?」
という問いの中心にミトコンドリアを置きました。
ミトコンドリアは、よく
「細胞の発電所」
と説明されます。
もちろん、それは間違いではありません。
しかし、ミトコンドリアを見つめ続けると、それだけでは説明できない生命現象が見えてきます。
ミトコンドリアは単にATPをつくるだけではなく、細胞が生き延び、環境の変化に適応し、恒常性を維持するための重要な役割を担っています。
私の関心は、次第に「どれだけエネルギーをつくれるか」から、
「そのエネルギーを使って、生命はどうやって自分自身を立て直しているのか」
へ移っていきました。
添付資料で整理した言葉を使えば、
ミトコンドリアは単なる「発電所」ではなく、
細胞が生き延び、適応し、回復するための重要な制御点
という見方です。

私が本当に知りたかったのは、「なぜ戻れなくなるのか」だった
人間の身体は、毎日傷ついています。
運動をすれば筋肉には負荷がかかります。
紫外線を浴びれば細胞はストレスを受けます。
感染症になれば免疫系は大きく動きます。
睡眠不足、心理的ストレス、炎症、代謝の変化。
私たちは、生きているだけで絶えず環境から影響を受けています。
それでも若い身体は、多くの場合、再び元の状態へ戻っていきます。
ここに私は、老化を考える重要なヒントがあると思うようになりました。
問題は、
「傷つくこと」そのものではないのではないか。
むしろ、
傷ついたあとに、元の状態へ戻る能力が少しずつ失われていくこと。
そこに老化の本質の一つがあるのではないか。
そう考えるようになったのです。
Aging is not simply time.
私は今、この考え方を一つの言葉で表現しています。
Aging is not simply time.
It is the loss of recovery capacity.
老化とは、単に時間が経過することではない。
回復する能力が少しずつ失われていく過程ではないか。
これは「年を取らないようにしよう」という話ではありません。
時計を逆回転させることでもありません。
20歳の身体へ戻ることを目標にしているわけでもありません。
大切なのは、
何歳であっても、その人が持っている「戻る力」をできるだけ保つこと。
そして、低下しているのであれば、
もう一度、回復できる状態へ近づけること。
私はそこに、これからのアンチエイジング医学の新しい方向があると考えています。
「若返る」の意味も変わった
ですから、私が使う「若返る」という言葉の意味も変わってきました。
若返るとは、
時計を逆に戻すことではありません。
見た目だけを若くすることでもありません。
私が考える「若さ」とは、
ダメージを受けても戻れること。
環境が変わっても適応できること。
必要なときに修復できること。
そして、再び動き出せること。
です。
添付資料の中でも、この考え方は、
「若さとは、年齢ではない。ダメージを受けても、戻れる力である。」
と整理しています。
治療法から、生命観へ
ここまで来ると、「アンチエイジング」という言葉だけでは、私が目指しているものを十分に表現できなくなってきました。
最初は、
どうすれば老化に介入できるのか。
という「方法」を考えていました。
次に、
なぜ老化するのか。
という「メカニズム」を考えるようになりました。
そしてミトコンドリアを見つめ続けた先で、
生命は、どうやって自分自身を回復させているのか。
という問いにたどり着きました。
これはもう、単なるアンチエイジングの方法論ではありません。
生命をどう見るかという問いです。
資料で整理した流れをそのまま示すと、
老化は「治る」
老化は運命ではない
↓
ミトコンドリアから読み解く老化と再生
その鍵はミトコンドリアにある
↓
MITO RISING
では、ミトコンドリアは何を守っているのか?
↓
Recovery Capacity ― 回復力
となります。
Recovery Capacityという考え方
私がいま考えているRecovery Capacityとは、単なる「体力」ではありません。
病気にならない能力だけでもありません。
細胞、代謝、免疫、組織、そして身体全体が、ストレスやダメージを受けたあとに、
修復し、適応し、恒常性を取り戻し、再び機能できる状態へ戻っていく能力。
それを一つの大きな生命システムとして捉えたいと考えています。
だから私がこれから目指したい医療は、
「若く見せる医療」ではありません。
「回復できる身体を育てる医療」です。
そして、MITO RISINGへ
この考え方を、私はMITO RISINGという活動へつなげています。
ミトコンドリアから始まった問いは、老化へ進み、再生へ進み、そして「回復とは何か」という問いへつながりました。
だから、私にとってMITO RISINGは単なるミトコンドリアのプロジェクトではありません。
それは、
人間が本来持っている「回復する力」を、もう一度医学の中心から考える試みです。
そして、その考え方を医療だけに閉じ込めるのではなく、日々の生活、教育、家族、そして社会へ広げていきたい。
私はその先に、Culture of Recovery ― 回復の文化が生まれる可能性があると考えています。
The journey began with mitochondria.
It led us to recovery.
ミトコンドリアから始まった旅は、
「回復」へとつながっていく。
私は最初、
「老化は治せるのではないか」
と考えました。
そして今、
「人間には、回復する力がある。その力をどう守り、どう育てることができるのか」
を考えています。
これが、私が
「アンチエイジング」から「回復力」へ進んだ理由です。
MITO RISING
The Age of Recovery.
