「回復力」は測れるのか?

THE AGE OF RECOVERY02|MEASUREMENT

前回、私は、Age ≠ Recovery Capacityという考え方をお話ししました。

同じ70歳でも、病気や疲労から比較的早く戻れる人もいれば、元の状態まで戻るのに時間がかかる人もいる。

では、その違いを生み出すRecovery Capacity ― 回復力を、医学は測ることができるのでしょうか。

私は、ここがこれからのRecovery Capacity Medicineにとって、とても重要な問いになると考えています。


「今の状態」を測る検査はたくさんある

現在の医学には、血圧、血糖、HbA1c、腎機能、肝機能、炎症マーカー、筋力、歩行速度、心肺機能、認知機能身体など、状態を評価する多くの方法があります。

さらに近年は、エピジェネティック年齢、テロメア、プロテオーム、トランスクリプトーム、メタボロームなど、

Biological Age ― 生物学的年齢を捉えようとする研究も進んでいます。

これらは非常に重要です。

しかし、ここで私は一つ別の問いを考えています。

「今どの状態にあるか」を測ることと、「何かが起きたあと、どれだけ戻れるか」を測ることは、同じだろうか?


Biological Age ≠ Recovery Capacity

たとえば、健康診断で二人の検査値がほぼ同じだったとします。

二人とも70歳。血圧も似ている。血糖も大きく変わらない。日常生活にも問題がない。

しかし、同じような感染症や手術、強いストレスを経験したあと、一人は比較的早く元の生活へ戻る。もう一人は、疲労や筋力低下、食欲低下などが長く残る。

ストレスを受ける前だけを見ていたら、この違いは分からないかもしれません。

つまり、Recovery Capacityを考えるには、State ― 状態だけではなく、Dynamics ― 動きを見る必要があるのではないでしょうか。


Recovery Capacityは「点」ではなく「軌跡」なのかもしれない

ここが、私が最も重要だと考えているところです。

回復力を一つの数字で表すことができれば便利です。

しかし生命は、静止していません。

ストレスを受け、反応し、修復し、適応し、そして再び安定した状態へ向かう。

だからRecovery Capacityとは、ある瞬間の検査値というより、

「負荷を受けたあと、どのような軌跡を描いて戻っていくか」を見る概念なのかもしれません。

たとえば、

Baseline

Stress / Damage

Response

Repair

Recovery

New Baseline

です。


何を測ればよいのか?

もしこの考え方が正しいなら、Recovery Capacityを評価するには少なくとも三つの視点が必要になります。

① Recovery Speed ― どれくらい速く戻るか:疲労、炎症、心拍、睡眠、運動能力などが、負荷後どれくらいの時間で回復するのか。

② Recovery Completeness ― どこまで戻るか:元の状態近くまで戻るのか。

それとも、以前より少し低い状態で新しいbaselineになるのか。

③ Recovery Reserve ― どれだけ余力があるか:一度のストレスには対応できても、次のストレスが重なったときにも回復できるのか。

私は、このSpeed × Completeness × Reserveという三つの軸が、「回復力を測る」という考え方の出発点になり得ると思っています。


「正常値」だけでは見えないもの

ここから医学の見方も少し変わります。

従来の検査では、正常か、異常かという判断が中心です。

しかしRecovery Capacityの視点では、変化したあと、どう戻ったかを見る。

たとえば睡眠なら、単に「何時間眠ったか」だけではない。強い負荷を受けた翌日に、睡眠がどう変化し、その後どう戻るか。

運動なら、一回の筋力測定だけではない。運動後の心拍や疲労が、どの速度でbaselineへ戻るか。

炎症なら、一回のCRPだけではない。炎症が起きたあと、きちんと収束できるか。

ここには、Static Biomarker → Dynamic Biomarkerという発想の転換があります。


Recovery Curveという考え方

私は将来的に、Recovery Capacityを考えるとき、Recovery Curve ― 回復曲線という考え方が重要になるのではないかと思っています。

同じストレスを受けても、A:速く、十分に戻るB:戻るが、時間がかかるC:完全には戻らないという違いがある。

この「曲線の形」そのものに、その人のRecovery Capacityが現れるのではないでしょうか。

つまり、

Recovery Capacity is not only where you are.
It is how you return.

回復力とは、今どこにいるかだけではない。
どう戻ってくるかである。


ただし、まだ「回復力検査」が完成しているわけではない

ここは非常に大切です。

現時点で、「この一つの検査をすればRecovery Capacityが測定できる」という確立された医学的検査があるわけではありません。

Recovery Capacityは、私が現在考えている統合的な枠組みです。

だからこそ、これから、生物学的年齢、ミトコンドリア機能、炎症、免疫、代謝、睡眠、自律神経、筋力、運動耐容能、そして時間軸に沿った回復の変化を組み合わせ、「回復する能力」をどう可視化できるのかを考えていく必要があります。


年齢を測る医学から、回復を測る医学へ

これまで私たちは、How old are you?を測ってきました。

次にBiological Age研究は、How old is your body?を問い始めました。

そして私は、その先にもう一つの問いを置きたいと思います。

How well can you recover?

あなたの身体は、どれだけ回復できるのか。

もしそれを科学的に捉えることができれば、老化医学の見方は大きく変わるかもしれません。


THE AGE OF RECOVERY

Age is a number.

Biological age is a state.

Recovery Capacity is a dynamic process.

年齢だけを見るのではない。

今の状態だけを見るのでもない。

変化したあと、どれだけ速く、どこまで、そして何度でも戻れるのか。

そこを見る医学へ。

MITO RISING|The Age of Recovery

次回は、

03|NETWORK

「回復力」を決めているものは何か?

ミトコンドリアなのか。
免疫なのか。
炎症なのか。
睡眠なのか。
代謝なのか。

答えは、おそらく「一つではない」

次は、

Recovery is a systems property.

という視点から、身体を「回復するネットワーク」として考えていきます。

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