先日、私が配置医師を務めている特別養護老人ホームで、大切な出来事がありました。
ある高齢の入所者の方に、急速な認知機能の低下がみられました。
食事を目の前にしても、それが「食べるもの」だと認識することができない。
口を開けようとせず、食事も進まない。反応も以前とは明らかに違う。
一見すると、「認知症が急速に進んでしまった」ように見えました。
しかし私は、本当に脳だけの問題なのだろうか。と考えました。
そこで身体の状態を詳しく調べていくと、食事を摂取できていないのに、著しい高血糖と脱水が見つかりました。
血糖値は421 mg/dL
HbA1cは12.6%
さらに病院受診時には、身体の水分が不足していることを示す所見も確認されました。
考えられたのは、
高血糖
↓
尿から大量の水分が失われる
↓
脱水
↓
身体の恒常性が崩れる
↓
脳の働きが低下する
という流れです。
つまり、「認知症が突然進んだ」ように見えていた症状の背景に、高血糖と脱水という、身体側の問題があった可能性が高かったのです。原因を考え、身体の状態を整えるための対応を行った結果、状態は少しずつ落ち着いてきました。
そして一昨日、ご家族にその経過を説明しながら、私は改めて考えました。
脳症状だからといって、老化の原因が脳だけにあるとは限らない
超高齢者の方が突然、食べなくなった。反応が悪くなった。眠ってばかりいる。会話が成り立たなくなった。認知症が急に進んだように見える。そのようなとき、私たちはつい、「年齢のせい」「認知症が進んだ」と考えてしまいがちです。
しかし、その前に確認しなければならないことがあります。
脱水、高血糖、電解質異常、腎機能の低下、感染症、薬剤の影響、低酸素、便秘や尿閉、こうした身体の変化によっても、脳の働きは大きく変化します。
特に超高齢者では、身体の恒常性が少し崩れただけでも、その異常が最初に「脳からのサイン」として現れることがあります。
だからこそ、急速な認知機能低下を、すぐに「認知症の進行」と決めつけない。治療可能な身体的原因が隠れていないかを、一つずつ探していく。
これは高齢者医療において、とても大切な視点だと思います。
超高齢者にも、「回復」はある
今回、私が何より印象に残ったのは、超高齢者の方にも、回復する力が残されているということでした。
年齢を重ねれば、若い頃と同じようには回復できません。身体の予備力も小さくなっています。
しかし、原因を見つける。身体の環境を整える。水分を整える。代謝を整える。必要なサポートを行う。
そうすることで、反応が戻る。食事が進む。表情が変わる。そして、また笑顔になることがあります。

私は今年から、「回復力」を取り戻すというテーマで文章を書き続けています。
回復力とは、若返ることではありません。さらには何も起こらない身体をつくることでもありません。
病気や環境の変化によって身体のバランスが崩れたとき、もう一度、自分自身を立て直していく力が重要なのです。
今回の入所者の方を見ながら、私はその「回復力」を、実際の医療の現場で目の当たりにしたように感じました。
Aging is not only time.
年齢だけを見れば、「もう高齢だから」と思ってしまうかもしれません。
しかし、その人の中にどれだけの回復する力が残っているのかは、年齢だけでは決まりません。
高齢になっても、身体からの小さなサインを見逃さず、回復できる条件を整えてあげる。
そこには、まだできる医療があります。
そして、その先に、もう一度笑顔になる可能性があります。
それが、私が考えるRecovery Capacity ― 回復力です。
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