―「老化だから仕方がない」ではなく、変えられる部分はどこにあるのか―
年齢を重ねると以前とは少し違う変化に気づくことがあります(老化)。
一晩眠っても疲れが残る。
風邪のあと、元の調子に戻るまで時間がかかる。
運動した翌日の疲労が長引く。
環境が変わると、以前より適応に時間がかかる。
こうした変化(老化を、私たちはつい、「年齢だから仕方がない」と受け入れてしまいます。
しかし、もし老化の一側面をRecovery Capacity(回復力)の低下として捉えるなら、次の問いが生まれます。
回復力は、取り戻すことができるのでしょうか。
回復力は「固定された能力」ではない
前回の03|NETWORKでは、回復とは一つの臓器だけで起こるものではなく、ミトコンドリア、免疫、炎症、血流、リンパ、筋肉、代謝、睡眠、自律神経などが協調して成立する生命現象ではないか、と考えました。
つまりRecovery Capacityは、どこか一か所に存在する「力」ではありません。
身体全体のネットワークが、必要なときに反応し、必要なものを処理し、修復し、反応を終わらせ、再び安定した状態へ戻る。
その一連の働きから生まれる性質です。
そうであるなら、回復力は単純に「ある・ない」で決まるものではなく、日々変化する動的な能力として考えることができます。
老化で変えられる可能性があるのは「回復する条件」
時間そのものを巻き戻すことはできません。
しかし、身体が回復するための条件には、私たちが働きかけられる部分があります。
たとえば、睡眠。十分な休息と概日リズムは、全身の調節に関わります。
運動。筋肉を保つだけでなく、代謝やミトコンドリアの適応にも影響します。
栄養。修復に必要な材料と、エネルギー代謝を支えます。
ストレスへの適応。負荷をゼロにするのではなく、負荷のあとに戻れる時間と余白をつくることが重要です。
ミトコンドリアの品質管理。傷んだミトコンドリアを処理するmitophagy、新しくつくるbiogenesis、fusion / fissionによる再編成も、細胞が環境変化へ適応する仕組みの一部です。
つまり目指すのは、「一つの若返り物質」を探すことではありません。
身体全体がもう一度うまく働ける条件を整えることです。
Restorationとは「昔の自分へ戻ること」ではない
ここで大切なのは、Recoveryを単純な「元通り」と考えないことです。
病気や大きな出来事を経験すれば、身体も人生も変化します。
完全に以前と同じ状態へ戻ることが、いつも最善とは限りません。
回復とは、Restoration ― 修復だけでなく、Reorganization ― 再編成そしてAdaptation ― 適応を含むものではないでしょうか。
だから私は、Recovery = Restoration + Reorganization + Adaptationと考えています。
回復とは、過去へ戻ることではなく、変化(老化)した自分でもう一度、機能し、生活し、前へ進める状態をつくることなのです。
「老化だから仕方がない」から「どこなら変えられるか」へ
もちろん、加齢による変化のすべて(老化)を元に戻せるわけではありません。
そして現在、「この方法を行えばRecovery Capacityが回復する」と証明された単一の治療法や検査があるわけでもありません。
Recovery Capacityは、私が現在考えている統合的な医学の枠組みです。
だからこそ重要なのは、何が変えられないかだけを見るのではなく、何がまだ変えられるのかを見ることです。
眠り方は変えられるかもしれない。
身体の動かし方は変えられるかもしれない。
食事は変えられるかもしれない。
一日のリズムは整えられるかもしれない。
筋力や運動耐容能は改善できるかもしれない。
炎症が長引きにくい環境をつくれるかもしれない。
そして、ミトコンドリアを含む身体全体のネットワークが、より良く適応できる条件を整えられるかもしれません。
その積み重ねの先に、「戻れる身体」を守るという、新しい健康づくりの考え方があると思っています。
THE AGE OF RECOVERY
老化を完全に止めることはできません。
しかし、回復する条件まで、年齢だけで決まるとは限らない。
だから私は、
How can we stop aging?
ではなく、
How can we restore the capacity to recover?
という問いを考えています。
Aging is not simply time.
It is the progressive loss of recovery capacity.
そして健康づくりとは、何も起こらない身体をつくることではなく、何かが起きても、もう一度戻れる身体を育てることなのかもしれません。
MITO RISING|THE AGE OF RECOVERY
次回は最終章、
05|MEDICINE
Recovery Capacity Medicineとは何か?
「病気を治す医療」に加えて、「回復できる状態を診て、測り、支える医療」は可能なのか。
そこから、これからの医療の形を考えます。
