ここまで、THE AGE OF RECOVERYでは四つの問いを考えてきました。
01|DIFFERENCE
なぜ同じ年齢でも、「戻る力」が違うのか。
02|MEASUREMENT
その回復力を、医学は測ることができるのか。
03|NETWORK
回復力は、ミトコンドリア、免疫、炎症、代謝、血管、リンパ、筋肉、睡眠などがつくるネットワークの性質ではないか。
04|RESTORATION
そして、その回復力を守り、もう一度取り戻すことはできるのか。
そして最後に、一つの問いへたどり着きます。
もしRecovery Capacityという考え方があるなら、医学(医療)はどう変わるのか。
私は、その答えの一つを、Recovery Capacity Medicine:回復力を診る医療として考えています。
現代医学が「病気」を診てきたからこそ、救えた命がある
まず、ここを明確にしておきたいと思います。
私は、「病気を治療する医学から離れるべきだ」と考えているわけではありません。
感染症には感染症の治療が必要です。
心筋梗塞には迅速な治療が必要です。
がんには、手術、薬物療法、放射線治療などが必要です。
糖尿病や高血圧には、適切な管理が必要です。
現代医学は、病気を発見し、診断し、治療するという体系を発展させることで、多くの命を救ってきました。
それは、これからも医学の中心であり続けます。
しかし私は、そこにもう一つの視点を加えたいと思っています。
「何の病気か?」の次に、「どれだけ戻れるか?」
同じ肺炎でも、治療後すぐに日常生活へ戻れる人がいる。
感染は治ったのに、長く体力が戻らない人もいる。
同じ手術を受けても、比較的早く歩けるようになる人がいる。
筋力や食欲がなかなか戻らない人もいる。
病名が同じでも、Recovery trajectory ― 回復の軌跡は同じではありません。
だから私は、
What disease does this person have?
だけではなく、
How well can this person recover?
という問いも、医学に必要なのではないかと考えています。
Disease-centered Medicine + Recovery-centered Medicine
病気を中心に考える医学では、
何の病気なのか、どこが異常なのか、どう治療するのかを考えます。
Recovery Capacity Medicineでは、そこに、どこまで回復できるのか回復を妨げているものは何か、どこに回復の予備力が残っているのか、どうすれば回復できる条件を整えられるのかという問いを加えます。
つまり、二者択一ではありません。
Treat Disease + Support Recoveryです。
Recovery Capacity Medicineが見るもの
では、「回復力」を診るとは、具体的に何を見るのでしょうか。
一つの臓器だけではありません。
一つの血液検査だけでもありません。
私は、少なくとも三つの層を見る必要があると考えています。
1|State ― 今どの状態にいるのか
炎症、代謝、筋力、睡眠、認知機能、身体活動、栄養状態、そして、必要に応じて生物学的年齢に関連する指標。
これは現在の身体の現在地です。
しかし、現在地だけでは回復力は分かりません。
2|Dynamics ― どう戻るのか
運動したあと、感染したあと、眠れなかったあと、手術を受けたあと、強いストレスを受けたあと、
身体は、どれくらい速く、どこまで、どのように戻っていくのか。
ここで見るのが、Recovery Speed・Recovery Completenessです。
3|Reserve ― 次にも対応できるのか
一度回復したあと、次のストレスにも対応できる余力が残っているのか。
私はこれを、Recovery Reserve ― 回復予備力という視点で考えています。
つまり、State × Dynamics × Reserve
この三つを統合して考える。
それが、Recovery Capacityを臨床で捉える一つの方向になるのではないでしょうか。
回復力は、一つの検査値ではない
現時点で、「この検査をすればRecovery Capacityが測れる」という確立された単一検査が存在するわけではありません。
Recovery Capacity Medicineも、現在確立された標準診療体系の名称ではなく、私が構想している医学的フレームワークです。
だからこそ、一つの数値だけで「あなたの回復力は80点です」と単純化するのではなく、身体がストレスにどう応答し、どう回復するのかを時間軸で見る。
静的医学から、動的医学へ
健康診断では、ある日の血糖、ある日の血圧、ある日のCRP、ある日の体重を測ります。もちろん大切です。
しかし生命は、常に動いています。
だからRecovery Capacity Medicineでは、Static Biomarkerだけではなく、Dynamic Biomarkerへ視点を広げたい。
重要なのは、今いくつなのかだけではなく、変化したあと、どう戻るのかです。
臓器を診る医学から、Recovery Networkを診る医学へ
Recovery Capacityは、一つの臓器だけでは成立しません。
ミトコンドリアがエネルギーと代謝・ストレス応答を支える。
免疫が異常を察知する。
炎症が必要な反応を起こす。
炎症終結の仕組みが、その反応を終わらせる。
血管が酸素や栄養を届ける。
リンパ系が組織環境や免疫細胞の交通に関わる。
筋肉が身体の予備力を支える。
睡眠と概日リズムが全身の時間を整える。
脳と自律神経が、それらを調節する。
つまり、
Recovery is a network phenomenon.
だからRecovery Capacity Medicineは、Mitochondria aloneを見る医学ではありません。
Mitochondria within the Recovery Networkを見る医学です。
「強くする医療」でもない
Recovery Capacity Medicineとは、すべての機能を強くする医療ではありません。
免疫は、強ければ強いほどよいわけではない。
炎症も、ゼロならよいわけではない。
ミトコンドリアも、常に最大出力で働けばよいわけではない。
大切なのは、必要なときに働き、必要がなくなれば静かに戻れること。
感染したら反応する。
病原体を排除する。
炎症を終わらせる。
損傷を修復する。
代謝を整える。
そして恒常性へ戻る。
Detection
↓
Response
↓
Clearance
↓
Repair
↓
Resolution
↓
Homeostasis
この循環を最後まで閉じること。
私はここに、Recovery Capacity Medicineの重要な考え方があると思っています。
治療の目的も変わる
従来の医療では、病気を治す、症状を改善する、検査値を正常化することが重要なゴールです。
Recovery Capacity Medicineでは、その先にもう一つ問いを置きます。
治療後、その人は再び生活へ戻れたのか。
歩けるようになったか。
眠れるようになったか。
食べられるようになったか。
考えられるようになったか。
人と会えるようになったか。
そして、次のストレスにも対応できる余力が戻ったか。
病気が消えたことと、その人が回復したことは、必ずしも同じではない。
ここは、これからの医学でさらに大切になる視点だと思います。
「病気になる前」も医学の対象へ
病気になってからではなく、まだ病名がついていない段階。
疲れが抜けにくくなった。
睡眠から戻れなくなった。
運動後の回復が遅くなった。
感染後に以前の状態へ戻るまで時間がかかるようになった。
こうした小さな変化は、必ずしも病気ではありません。
しかし、Recovery Capacityが低下し始めているサインとして捉えられる可能性があります。
だから、Disease Detectionだけではなく、Recovery Decline Detectionという視点も、将来的には重要になるかもしれません。
医療は、生命に代わって回復することはできない
そして最後に、私がRecovery Capacity Medicineで最も大切にしたい考えがあります。
医師が患者さんの代わりに眠ることはできません。
代わりに筋肉をつくることもできません。
代わりに適応することもできません。
生命そのものが持っている回復機構を、医療が完全に代行することはできません。
だから医療の役割は、生命に代わって回復することではなく、生命が回復できる条件を整えることなのではないでしょうか。
From Treatment to Recovery
これからの医学は、Treatmentを捨てる医学ではありません。Treatmentの先に、Recoveryを見る医学です。
Diagnose Disease.
Treat Disease.
Support Recovery.
Preserve Recovery Capacity.
そして必要なら、Restore the conditions for recovery.
私はそれを、Recovery Capacity Medicineと呼びたいと思っています。
THE AGE OF RECOVERY
シリーズの最初に、私たちはこう問いかけました。
人は、なぜ回復できなくなるのか。
そして、その力を取り戻すことはできるのか。
5回を通して見えてきたのは、回復力とは年齢そのものではない。
一つの検査値でもない。
一つの臓器でもない。
一つの治療法でもない。
それは、生命システムが、ストレスを受けても、修復し、再編成し、適応し、再び機能できる状態へ向かう能力。
そして医学にできることは、その力を支える条件を、測り、守り、整え、育てることなのではないでしょうか。
The future of medicine is not only to treat disease.
It is to preserve the capacity to recover.
病気を治す医療から、病気を治し、さらに「回復できる状態」まで支える医療へ。
Recovery Philosophy
×
Recovery Science
×
Recovery Medicine
その先に私が見ているもの。
MITO RISING
THE AGE OF RECOVERY
Hope is Recovery.
Recovery is Life.
